あなた自身の物語
スパークスは評する。「『きみがくれた物語』のあらすじを読むと、私の処女作である「きみに読む物語」を思い起こすかもしれない。だが、本作はより印象的で深遠な物語だ。一組の男女が愛し合い、彼らの暮らしが展開していく過程を見せているんだ。トラヴィスとギャビーが道を選び、その結果起きる出来事を目撃することになる。単純ではなく、さまざまなことが起き、深みのある忘れられない物語なんだ」
『きみがくれた物語』には笑いと喜びと悲しみと喪失があり、あらゆる感情で観客に訴えてくる作品だとプロデューサーのテレサ・パークは言う。「それこそがニコラスが本を書く時に目標としていることなの。短い時間に人生の感情の“虹”が描かれていて、それが観客の心に訴えるのよ。この作品を見たらこう思うわ。“あんなことが私に起こったらどうしよう?”ってね」
カッツ監督は語る。「ニコラスの原作と映画化作品のファンは『きみがくれた物語』を見て、驚き、そして満足するだろう。我々はニコラスが描いたユーモアや人間らしい面を、さらに膨らませて作品を作り上げた。この映画は人生は選択だということを思い出させてくれる。なぜ選択をするのか、その決断が何をもたらすのかは、登場人物たちを通じて分かるだろう。この映画に出てくる人物は、あなたの友達かもしれないし、恋人かもしれないし、姉妹や兄弟かもしれない。そしてあなた自身かもしれない」
斬新なストーリーに魅せられた豪華キャスト陣
ウォーカーは語る。「『きみがくれた物語』が際立ってるところは単なる恋愛物語ではないというところだ。いろいろな要素がある。もちろん愛についての作品であるのは間違いない。恋に落ちる物語は多いが、その後どのようになり、どう一緒になるのか?どのようにお互いを守り合うのか?を描いている作品は少ない。トラヴィスとギャビーは一緒に生きていくために、大きな障壁を越えていかなければならない。トラヴィスは1人でも幸せだと思っていたが、誰かと人生を共有する喜びを知り、その相手を手に入れるために奮闘する」
ウォーカーは、これまでの成功とはまた別の視点から物語を描いたスパークスを称賛する。「ニコラスが原作の映画は全部ロマンチックだが、今回はさらに新しい要素も加えられている」。ウォーカーはさらに語る。「想像したよりも、泣けて同時におかしさのある物語だよ。ニコラスにとっては挑戦だっただろう。過去の作品と同じことをし続けてもいいのに、彼はその枠から飛び出したんだ。原作のファンの人なら物語のどこが新しいのか分かるだろう。原作を知らない人なら、映画を見たあと小説も読みたくなるだろう。なぜならギャビーやトラヴィスたちともっと一緒に過ごしたいと思うだろうからね」
パーマーは初めて脚本を読んだ時、すすり泣いたと同時に声を上げて笑ったと言う。「この物語の原動力は愛よ。でも他のニコラスの映画化作品とは違う感じがする。ノースカロライナが舞台でボートが出てきてロマンチックなのはニコラス作品っぽいけれど、ちょっとおバカな要素があるの。そこが、本作がより大好きなところよ」
ウィルキンソンは、よくできたラブストーリーに魅力を感じた。彼はこう語る。「なかなか珍しい物語だよ。面白いし、気の利いたキャラクターたちが出てくる感動的な物語だ。シェップとトラヴィスの親子関係には心を動かされる。トラヴィスとギャビーが大きな障壁にぶつかった時、その親子関係がとても鍵になるんだ」
こだわりのロケ地と美術
スパークスは、ロマンスが繰り広げられる舞台に、たびたび牧歌的なノースカロライナ州を選ぶ。しばしば沿岸内水路と穏やかな海岸が登場する。『きみがくれた物語』も例外ではない。ウィルミントンで30日間撮影し、ドックサイドレストランやエアリー・ガーデンズなど実際にある有名な場所をロケ地として使用した。そして沿岸内水路では数日間にわたりウォーカーが250馬力の約10メートルのスポーツフィッシングボートの舵を取った。
カッツ監督は語る。「沿岸内水路は緑の湿地草原に囲まれた素晴らしい場所だ。小さな地域社会があるビーチで実に美しいところだ。トラヴィスと、彼が暮らす環境との関係性を強調したかった。それにノースカロライナは特別な場所だから、観客にぜひ紹介したいと思ったんだよ。アメリカらしい場所といえばグランドキャニオンを挙げる人が多いだろうけど、僕はノースカロライナを押したいね。本当に素晴らしい場所なんだ」
カッツ監督はノースカロライナの美しい景観を広角レンズで撮影し、息をのむような美しい海岸の景色を最大限に活かした。カッツが撮影監督のアラー・キビロに出した指示は、シンプルでリアルなショットを撮って、ありのままの美しさを映し出してくれということだった。監督は語る。「ニコラス作品の特徴は、彼の作り出した世界の一員になりたいと思わせるところなんだ。本作を10分も見ればきっと“この世界に住みたい”って言うよ」
美術監督のマーク・ガーナーは長年、スパークス作品に携わってきた。この作品の前に『きみに読む物語』と『親愛なるきみへ』他4本に参加している。彼の最大の仕事はトラヴィスとギャビーの隣り合う家を探すことだった。それぞれの特徴にあった家で、しかもギャビーの家からトラヴィスの庭がはっきり見えなければならない。そして彼は大掛かりな解決策を思いついた。
ガーナーは1940年代の植民地時代風の家を見つけた。ゆったりとした広い芝生があり沿岸内水路も見渡せる条件を満たした家だが1軒しかなく、隣のギャビーの家がなかった。しかし敷地が広かったので、ガーナーは家を建ててしまおうと考えた。そして撮影班と共にベッドルームだけの特別設計の27坪の家を建てた。完成した家を見た敷地のオーナーは、家を壊さないで残してくれと頼んできた。
ガーナーは語る。「ギャビーの家を建てたことを誇りに思ってる。美術監督として常にキャラクターの背景に合う物を作ろうと心がけている。ギャビーの家はそのデザインを通して彼女の人となりを物語っているんだ」
パークは「マークはとても優秀で熱心な人よ」と語る。「ニコラスが描いた感情を見事に形に表してくれた。家の中の小さな物すべてが、例えば写真立てやイヤリング、それにマグカップも何もかもがギャビーの人柄を表してるの。花だってギャビーが飾りそうなものを選んでいたわ。しかも望んだ物が見つからなかった時は、自分で作ってしまうのよ」